3つの観点から考えるAzure VDI三大ソリューションの違い
仮想化技術に注目が集まり、テレワークへの適用を試みる企業が増えてきた昨今、VDIサービスの中でも「Azure Virtual Desktop」「Citrix Cloud」「VMware Horizon Cloud on Microsoft Azure」が認知されてきています。基盤にMicrosoft Azureを適用している点は共通していますが、各ソリューションの違いを把握できているでしょうか。VDIサービスの導入に乗り出す前に、本記事でそれぞれの違いをつかんでおきましょう。
3つのVDIサービスにおける共通点と相違点
Microsoft Azureを基盤にしたVDIには、大きく3つのソリューションがあります。1つ目は「Azure Virtual Desktop」、2つ目はCitrix Cloud環境を提供する「Citrix Cloud」、3つ目はVMware Horizon環境を提供する「VMware Horizon Cloud on Microsoft Azure(以下、Horizon Cloud on Azure)」です。
Azure VDIにおける三大ソリューションは、インフラ基盤としてどれもMicrosoft Azureを利用していますが、コントロールプレーンに各社独自の製品を活用することで差別化を図っています。
コントロールプレーンとは、ひと言で説明すると「ネットワーク制御を担うもの」です。具体的には、VDIソリューションを導入する上で必要な、ゲートウェイやコネクションブローカー、ロードバランサー、ユーザーポータル、プロファイル管理、ログや診断などを指します。Azure Virtual DesktopはMicrosoft、Citrix CloudはCitrix、Horizon CloudはVMwareがそれぞれ管理しています。
Citrix CloudとHorizon Cloud on Azureは、オンプレミスのVDIシステムと全く同じ機能とサービスをクラウドで提供しているわけではありません。あくまでもAzure Virtual Desktopの機能をCitrixやVMwareのコントロールプレーンと組み合わせて提供するものです。
それでは、どのような基準でソリューションを選択すればよいのでしょうか。次節以降では「マネージドサービスの範囲」「運用管理の違い」「ライセンスの違い」という3つの観点でから比較します。
三大ソリューションの比較~マネージドサービスの範囲~
ここからは、先に挙げた3つのソリューションであるAzure Virtual Desktop、Citrix Cloud、Horizon Cloud on Azureのマネージドサービスの範囲がどのように異なるのかを見ていきます。
まずCitrix Cloudは、管理ポータル、接続・トラフィック管理がマネージドサービスの範囲内と設定されており、コネクションブローカーのソフトウェア部分はSaaSアプリケーションとして提供されます。ただし、Citrix Gateway Serviceを利用しない場合は、オンプレミス環境にCitrix Gatewayを設置しなければなりません。
Horizon Cloud on Azureでは管理ポータル、接続・トラフィック管理、ゲートウェイ、コネクションブローカーのソフトウェア部分をマネージドサービスとして提供しています。下図では、管理ポータルを除いたハードウェアは「お客様(Azure)」となっていますが、これはコントロールプレーンが顧客のAzureサブスクリプション上に展開されることを示しています。
Azure Virtual Desktopでは管理ポータル、接続・トラフィック管理、ゲートウェイ、コネクションブローカーのソフトウェア、ハードウェアともにマネージドサービスとして提供しています。
なお、仮想デスクトップとRDS(Remote Desktop Services)ホストは、ユーザー企業のMicrosoft Azureサブスクリプション上に展開されます。
三大ソリューションの比較~運用管理の違い~
三大ソリューションの相違点について、ここでは「運用管理」という視点から紹介しましょう。まずHorizon Cloud on AzureとCitrix Cloudでは、利用状況のレポート機能やユーザーのヘルプデスク機能を提供しています。この機能はAzure Virtual Desktopには実装されていないため、同ソリューションを補完するにはサードパーティ製品のシステム環境モニタリングツールなどと組み合わせる必要があります。
また、三大ソリューションは通信プロトコルもそれぞれ異なります。Azure Virtual Desktopが「RDP」を利用するのに対し、Horizon Cloud on Azureは「PCoIP/Blast Extreme」、Citrix Cloudは「ICA/HDX」を利用しています。また、他にもトラフィック管理やロードバランスの手法も相違点として挙げられます。Horizon Cloud on AzureとCitrix Cloudの通信量は、Azure Virtual Desktopの約10分の1に削減できるケースもあるため、データ転送コストと狭帯域の回線を利用した場合の体感速度が大きく変わってきます。
三大ソリューションの比較~ライセンスの違い~
ここからは、利用料金に大きく関わってくるライセンス形態に着目してソリューションを比較しましょう。選定するソリューションによってはライセンス形態が異なっている例も多く、VDI三大ソリューションも例にもれません。自社の状況に合った形態を選択することが求められます。
Citrix Cloudには「Citrix Virtual Apps and Desktops」「Citrix Virtual Desktops」「Citrix Virtual Apps」「Citrix Virtual Apps and Desktops Standard for Azure」という4つの購入方法があります。契約単位はユーザー単位で、同時接続数単位を選択できます。
Horizon Cloud on Azureには、「VMware Horizon Subscription」「VMware Horizon Apps Standard Subscription」「VMware Horizon Universal Subscription」「VMware Horizon Apps Universal Subscription」という4つの購入方法があります。同時接続、ユーザー単位での購入が可能なだけではなく、支払い方法も年単位と月単位を選べます。このため、オンプレミスの災害対策や有事の際にだけ使用するVDIサービスの中では、低コストで利用できる点が特徴と言えます。
Azure Virtual Desktopは、「Microsoft 365 E3」「Microsoft 365E5」などのライセンスがあれば利用できます。ただし、Windows Serverを利用する場合は、Microsoft Software Assurance(ソフトウェア アシュアランス)付きのRDS CAL(Remote Desktop Service Client Access License:リモートデスクトップサービスクライアントアクセスライセンス)が必要です。
本記事ではVDIサービスにおける3つのソリューションを比較しました。ソリューション選定の1つの基準として利用コストを重視する場合はライセンスだけでなく、Windows 10マルチセッションを利用するかどうかも考慮しましょう。VDIを提供する場合においても、部門や用途に応じてWindows 10マルチセッションを組み合わせることで、低コストでのシステム運用が可能になります。