【VVF特別対談:Vol.1】vSphereの上位機能とvSANがもたらす仮想化基盤の進化

VMware vSphere Foundation(VVF)は、仮想基盤の中核となるvSphereと、ストレージ仮想化を担うvSANが含まれており、ITインフラの効率化と柔軟性を大幅に向上させる仮想化ソリューションです。本記事では、ネットワールドのVMware担当エンジニア・野村が、vSphereとvSANがもたらす具体的なメリットや活用事例について詳しく解説します。

野村 珠祐華

株式会社ネットワールド
SI技術本部

統合基盤技術部
プラットフォームソリューション1課

システムエンジニア

松本 光平

株式会社ネットワールド
SI技術本部

統合基盤技術部
プラットフォームソリューション1課
課長

※所属や役職は記事掲載当時のものとなります。

目次

vSphereの概要とVVFがもたらすメリット

株式会社ネットワールド 松本光平(以下、松本)今回は、VMwareが提供する「VMware vSphere Foundation(以下VVF)」から、当社で「vSphere」と「vSAN」を担当する野村さんよりお話を伺いたいと思います。まずは、vSphereについて簡単に教えていただけますか?

株式会社ネットワールド 野村珠祐華(以下、野村):vSphereは、物理サーバ上に仮想化環境を構築するための仮想化プラットフォームです。物理サーバのリソースを抽象化し、1台の物理サーバ上で複数の仮想マシンを稼働させることができ、柔軟性やリソースの利用効率を向上させることが可能です。

代表的な機能である「vMotion」は、仮想マシンをシャットダウンせずに別の物理サーバへ移行できる技術です。サーバのハードウェアメンテナンスが必要な場合や、特定のサーバにリソース負荷が集中している場合でも、vMotionを使えば業務を中断することなく仮想マシンを移動させることができます。

松本:業務の継続性を確保する上で欠かせない機能ですね。vSphereにはいくつかのエディションが提供されていますが、VVFの特徴について具体的に教えてください。

野村:vSphereには、「Standard」「Enterprise Plus」、そして「Foundation(VVF)」の3つのエディションが用意されています。この中でもVVFは、vSphereの全機能を利用でき、ストレージ仮想化を実現する「vSAN」や、運用管理を強化する「VCF Operations」といった付加価値の高い機能も含まれています。そのため、様々な規模の仮想化環境運用効率化や、仮想化を通じたハードウェアコスト削減を目指すケースに最適です。

一方、シンプルでコストパフォーマンスに優れた仮想化環境を構築したい場合には、「VMware vSphere Standard(VVS)」が適しています。VVSは、vSphereの基本機能のみが利用可能で、初期導入コストを抑えつつ、数台のサーバを効率よく運用したい中小規模の環境で特に効果を発揮します。

DRSの活用で運用効率を最大化

松本次に、VVFで利用できる機能について詳しくお伺いしたいと思います。まずは、「DRS」の具体的な役割やメリットについて教えていただけますか?

野村DRS(Distributed Resource Scheduler)は、3台以上のESXiホストを運用している環境で特に効果を発揮する、仮想マシンの自動配置機能です。ESXiホスト群全体のリソース使用状況を常時監視し、特定のホストがリソース不足に陥ると、負荷を分散するために仮想マシンを他のホストへ自動的に移動させます。手動で監視や操作を行う必要がないため、管理負担を大幅に軽減することができます。

また、DRSはリソースのサイジングにも効果的です。CPUやメモリの使用率を無駄なく引き出すことで、必要なサーバ台数を最小限に抑えることが可能です。この結果、ハードウェアコストや電力消費も削減され、運用効率の向上とコスト削減を同時に実現することが可能です。

松本:実際にどのようなシナリオで運用効率の向上を実現できるのでしょうか?

野村:たとえば、3台のESXiホストで構成された環境で、1台をメンテナンスモードに切り替えると、そのホスト上の仮想マシンはDRSによって自動的に他のホストへ移行されます。管理者が手動で仮想マシンを移行する必要がなくなり、メンテナンス作業を効率的かつスムーズに進めることが可能です。

もう一つの代表的な利用シナリオは、VDI(仮想デスクトップインフラ)環境です。このような環境では、多数の仮想デスクトップが稼働しており、個別の仮想マシンの配置を細かく管理する必要がありません。そのため、DRSでリソースを効率的に活用することで、安定したパフォーマンスを維持できます。

一方で、管理系サーバやデータベースサーバのように、特定のホスト上で動作させる必要がある仮想マシンについては、DRSの自動移動を無効化することが可能です。この柔軟性により、環境や用途に応じた最適な運用が可能になる点が、DRSの大きな魅力です。

vSphereの上位エディションでおすすめの機能「DRS(Distributed Resource Scheduler)」

Advanced Cross vCenter vMotionの導入効果と注意点

松本:次に、「Advanced Cross vCenter vMotion(AXVM)」について詳しく伺いたいと思います。名前に「vMotion」と付いていますが、従来のvMotionとはどのような違いがあるのでしょうか?

野村:AXVMは、異なるvCenter間での仮想マシン移行が可能であり、vMotionよりも適用範囲が大幅に拡張されています。単一のデータセンター内だけでなく、複数のデータセンター間でのリソース統合や、オンプレミス環境からクラウドへの移行といった広範なシナリオで利用できます。

また、AXVMの前身である「Cross vCenter vMotion」と比較すると、vSphere Clientの画面から異なるSSOドメイン間のvCenter間の仮想マシン移行が出来るようになりました。「Cross vCenter vMotion 」で異なるSSOドメイン間の仮想マシン移行をする際は、PowerCLIの準備が必要でした。しかしAXVMでは、PowerCLIのコマンドを準備をすることなくいつものvMotionのような感覚でvCenter間の仮想マシン移行が出来るため、管理者にとって負担が少なくなりました。

松本:利用事例や活用シナリオ、利用時に気を付けるべきポイントがあれば教えてください。

野村:弊社が携わったデータセンター統合プロジェクトでは、異なる地域に分散していた仮想マシンを新規のvCenterServer一箇所に集約する際にAXVMを活用しました。その結果、移行作業を効率的かつスムーズに進めることができ、計画通りにプロジェクトを成功裏に完了させることができました。

旧環境から新環境へ仮想マシンを移行させる以外にも、本番環境から DR 環境への仮想マシン移行、検証環境から本番環境への移行等にもAXVMは有用です。

AXVMを利用する際の注意点としては、移行中に大量のデータを転送するため、十分なネットワーク帯域幅を確保することが重要です。

分散仮想スイッチによるネットワーク管理の効率化

松本:次に、ネットワーク管理に関連する「分散仮想スイッチ(VDS)」について詳しく教えていただけますか?この機能はネットワーク運用にどのような効果をもたらすのでしょうか?

野村:VDSは、複数のESXiホスト間で設定を共有するネットワーク機能です。標準の仮想スイッチでは、各ホストごとに独立した設定が必要であり、ホスト数が増えるほど設定ミスや管理工数が増大するリスクがありますが、VDSではネットワーク設定を一度行うだけで、関連するすべてのホストに自動的に適用することができます。

たとえば、新しいホストを追加する場合でも、既存のVDS設定を適用するだけで簡単に運用環境に組み込むことが可能です。大規模なデータセンターや複雑なネットワーク構成を持つ環境では、統一された設定を迅速に適用できるVDSの特性が大きな強みとなります。

松本:大規模環境のネットワークを効率的に管理できますね。他に、VDSが提供する具体的なメリットについて教えてください。

野村:VDSのもう一つの大きな特徴は、高速ネットワークへの対応力です。VDSの「Network I/O Control」という機能を利用すれば、1本の高速NIC上で複数のトラフィックを効率的に制御することが可能です。

たとえば、管理トラフィックに5Gbps、ストレージ関連トラフィックに10Gbpsなど、重要な通信が他のトラフィックに影響されないように設定して、ネットワーク全体の安定性を保つことができます。

vSphereの上位エディションでおすすめの機能「VDS(分散仮想スイッチ)」

vSANが実現するストレージ仮想化の柔軟性とスケーラビリティ

松本:VVFにはストレージ仮想化の「vSAN」も含まれています。vSANの概要について教えていただけますか?

野村:vSANは、サーバ内蔵のローカルストレージを抽象化して、仮想的な共有ストレージとして運用できるソリューションです。vSphere Clientを使用して仮想化基盤とストレージを同一のインターフェースで一元管理できるため、専用のストレージ機器や管理ツールを導入する必要はありません。

また、新しいディスクを追加すると、vSANが自動的にデータストアを再構成する仕組みで、ストレージ容量の拡張や障害発生時のディスク交換も迅速かつスムーズに行えます。

vSANは、従来型の「ハイブリッド構成(HDDとSSDの組み合わせ)」と、すべてをSSDで構成する「オールフラッシュ構成」から選択可能です。近年では、SSDの価格低下や大容量・高速モデルの普及に伴い、オールフラッシュ構成が主流となっています。

松本:外部ストレージと比較した際のvSANの具体的な優位性について教えていただけますか?

野村:外部ストレージは高性能で多機能ですが、専用ハードウェアの調達コストや専門知識を持つエンジニアが必要になります。また、構成変更には手間がかかり、運用に制約が生じるケースも少なくありません。

一方で、vSANはvSphere環境に統合されているため、追加で専任エンジニアを配置する必要がありません。vSphere管理者がそのままストレージ管理を担えるため、運用が非常にシンプルになります。また、VMwareの一元化されたサポート体制を利用できる点も大きなメリットで、複数ベンダー間でのサポート調整が不要になり、トラブル発生時には迅速かつ的確な支援を受けられます。

ストレージ仮想化ソリューション「vSAN」の概要

vSAN ESA(Express Storage Architecture)の最新進化と活用例

松本:最後に、最新バージョンであるvSAN 8.0で導入された「ESA(Express Storage Architecture)」について詳しく教えていただけますか?従来の「OSA(Original Storage Architecture)」と比較して、どのような進化があったのでしょうか?

野村:ESAは、NVMeデバイスのみで構成され、NVMeデバイスを最大限に活用するために設計されたハイパフォーマンスなアーキテクチャです。従来のOSAで採用されていたキャッシュデバイスとキャパシティデバイスを分けて管理するディスクグループの仕組みが廃止され、すべてのデバイスをデータ保存用として統一的に利用することで、処理速度が大幅に向上しました。

さらに、ESAではストレージ効率も大幅に改善されています。キャッシュデバイスが不要になり、新たに導入された圧縮アルゴリズムによって最大で4倍のデータ圧縮が可能となり、ストレージの容量効率が飛躍的に向上しました。

加えて、RAID性能も大きく向上しています。特にRAID5やRAID6を使用した場合、OSAでは速度低下が課題となっていましたが、ESAではこれが大幅に改善されました。耐障害性を維持しつつ、高速なデータ処理が可能となり、ミッションクリティカルな環境でも安心して使用できる点がESAの大きな魅力です。

従来のvSAN OSAと新しいvSAN ESAの違い

松本:従来のOSAにも特定の用途に適した利点があるのでしょうか?

野村:OSAは、キャパシティデバイスに安価なHDDを組み合わせることで、初期導入コストを抑えつつ一定の性能を確保する設計が特徴です。このため、性能よりもコストを重視する環境や、シンプルな構成が求められる小規模な運用環境において、OSAは非常に適した選択肢となります。

一方で、リアルタイムのデータ分析や、大規模な開発・検証環境など、高速性と柔軟性が求められる用途にはESAが最適です。NVMeデバイスをフル活用できるESAのアーキテクチャは、これらのシナリオで卓越したパフォーマンスを発揮することができます。

松本:コストを重視する環境から、高性能が求められる用途まで、幅広いニーズに応えられる柔軟性こそがvSANの大きな魅力ですね。お話をお聞かせいただきありがとうございました。

VVFやVCFに関するご相談はネットワールドまで!

今回は、vSphereとvSANを活用したVMware vSphere Foundation(VVF)が提供する価値と、その特長についてご紹介しました。次回のVVF対談Vol.2では、Kubernetes環境を効率的に管理する「VMware vSphere Kubernetes Service(旧 Tanzu Kubernetes Grid Service)」について解説します。

VMware vSphere Foundation(VVF)VMware Cloud Foundation(VCF)に関するご相談は、ネットワールドまでお気軽にご相談ください!

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